弟矢 ―四神剣伝説―
乙矢はその場に膝をつき、泣き崩れるように一矢に頭を下げた。


「すまぬ。お前をひとりにした私の失態だ。わざとでないにせよ、お前には生涯消せない罪を背負わせてしまった」


乙矢は一矢の手の温かさにホッとしていた。

一矢の言葉を受け入れ、頭を下げて泣きつけば、昔と変わらぬ優しい兄がそこにいる。


「乙矢、お前のその優しさ、心の弱さに、また付け込まれないとも限らない。奴らがもし、弓月殿の命を盾に『青龍』を寄越せと言ってきたら? 或いは、私を殺せとお前に命じるやも知れぬ」

「そ、そんな……俺に、一矢が殺せると思うか? そんなまねだけは死んでもできない」

「それに、奴らがどうやって『白虎』を手に入れたか……。遊馬一門の耳に入れば、お前は裏切り者として断罪されるやも知れぬ」


その声は心底、弟の行く末を案じたものに聞こえた。

乙矢にとって一矢が欠かせぬ存在であるように、一矢にとってもまた、乙矢は得がたい存在。

そんな一矢を見上げ、乙矢は心を決めたように言う。


「それは……仕方ないと思ってる。決して裏切るつもりなんかなかった。でも、結果的に俺のせいで父上も母上も殺された。その罰を受けろって言われたら……切腹とか、最悪、打ち首になっても仕方ないよ。その時は、弓月殿に知られることも……」

「この里を出ろ」


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