弟矢 ―四神剣伝説―
「姫っ!」


翌朝一番、弓月は長瀬によって叩き起こされた。ようやく夜が明けた時刻だ。

思えば、乙矢が傍に居るようになって、弓月はきちんと眠れるようになった。だが、こうやって起こされれば、


「どうした! 奇襲か!」


咄嗟に敵襲を思い浮かべ、弓月は飛び起き、枕元の刀を掴む。


「武器庫が襲われました! 見張りが殺され、神剣が……『青龍』一対が奪われました!」 


弓月は驚きのあまり言葉が出ない。だが、


「なぜだ! 『青龍』は、一矢殿に預けたはずではないか?」

「それが……」


『青龍』一対を揃えて抜いた訳ではない。だが、一矢のことは皆が勇者と信じていた。だからこそ、弓月も一矢に預けることに同意したのだ。しかし、そのことに凪が異を唱えた。


凪は、『青龍』は遊馬家が守護する神剣、爾志家の人間の手に委ねるのはおかしい、と言った。

それは、弓月が感じた不安を信じ、神剣を弓月と自分が分けて持つための言葉だったが……。

一矢は、弓月や他の者が再び剣を抜き、鬼と化す可能性を指摘した。代案として、かつてこの里で武器庫として利用されていた建物に再び鍵を付け、見張りを立てた上で、そこに保管することを進言したのである。

そして、そのことは弓月に知らされてはいなかった。

彼女に言えば、どれほどの危険を伴っても、自分自身で神剣を守ると言い出すのは、目に見えていたからだ。


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