弟矢 ―四神剣伝説―
口ごもる長瀬を退け、弓月は刀を手に武器庫へ駆けつける。

そこには、交代で見張りに立っていた里人二名の死体が転がり、大勢が群がっていた。

そして、一矢の姿もあった。


「弓月殿、注意して下さい。まだ敵が潜んでいるやもしれぬ」

「私は大丈夫です。戦えぬ者を一箇所にまとめ、逃がす準備を致しましょう」

「いや、それより……」


何か言い掛けた一矢のもとに、里人のひとりが小さな女の子を連れてやって来た。


「一矢様っ! この少女が下手人を見たと言っております!」

「何!?」


一瞬で周囲は色めき立つ。


「それはどんな連中だ!? 覚えていることを話すのだっ!」


新蔵に大声で問われ、五つ六つの少女は怯えて黙り込んだ。


「よさぬか、新蔵。――怖かったであろう。もう大丈夫です。何か、覚えておりますか? なんでもいい。思い出して話して欲しいのです」


突如、少女は弓月に縋って泣き始める。

少女の名はおきみと言った。先日の一件で両親を目の前で殺された。しかも、母の首が落ちた瞬間を見ていた。そう――弓月が助けた幼子はおきみであった。


「おきみ……見張りを殺し、武器庫に侵入した下手人の顔を、見たのですか?」


震えながらコクンと肯く。口をパクパクさせるが、音が出ない。


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