弟矢 ―四神剣伝説―
「結果、鬼になったのでは意味がなかろう? 私は、努力や経過など認めない。戦いは、勝つか、負けるか、だ」


一矢はそう言い放った。


「しかし、鬼と化す危険を恐れず、神剣を抜く者にのみ、勇者となる資格が与えられるのではありますまいか?」


それまで無言で立っていた凪が、静かに答える。

一矢はそんな凪にも理路整然と言い返した。


「よかろう。では、乙矢が里を出た夜に、武器庫が襲われ、見張りが殺された。そして、神剣も奪われてしまったのだ。あの少女は私の顔を指差した。考えたくはないが、それが事実ではないのか?」


その時、弓月は嫌なことを思い出していた。

高円の里に向かう途中で、弓月が父の最期を話した時、乙矢は――「こんな剣なくなったほうが良いとは思わないか?」と、尋ねた。それは、まさか……。

絶対に乙矢ではない、と思う反面、弓月を思ってのことではないか? とも考えてしまう。

まるで、里人の不安や焦燥感が、徐々に弓月まで伝染してしまったかのようだ。


「数日中に、双頭の龍を携えた鬼が我らを襲うことになるやも知れぬ。私は、それが乙矢でないことを心の底から願っている」


そんな一言を残し、一矢は身を翻した。


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