弟矢 ―四神剣伝説―
与えられた役目より、己の欲望を優先する武藤はそれでしくじることもあった。それでも、無駄な殺戮と暴行は止められないのであろう。まずは女のことを思い出す辺りが、狩野に理解できない神経だ。


「女の味はどうでもよい。爾志の宗主を殺すため、おぬしが乙矢より手に入れた『白虎』で鬼が作られたと聞いたが……」

「拙者も直接見たわけではないが……。そう聞いておりますな」

「だが、『白虎の鬼』は勇者でなければ倒せないのではなかったか? まあ、鉄砲隊でも連れて行ったなら別であろうが」

「ですから、あの方が『朱雀』で一閃されたのではござらんか? 数人の部下が見たと言っておったぞ。それで、間違いなくあの方は四天王家の血を引く、と幕府が認められたのだ。どの系統かは知らぬが、およそ誰かの落し胤でござろうな」


確かに、自分の目で確認したことに違いはない。

しかしあの天守閣は、それ自体が神剣を奉るための、様々な結界が施してあるという。あの場所に足を踏み入れられるのは、狩野と武藤のみ、他は、あの方に仕える小姓が二人……。その小姓は一人の時もあれば不在の時もある。

勇者云々はともかく、あの神剣を抜いた人間は、血に狂った鬼になる者と、人外の力を操れる者とに分かれるのは事実。


「武藤殿、佐用に向かう人員の手配はおぬしに任せよう」

「狩野様はどちらへ?」


白い肌と赤い唇に張り付いたような笑みを浮かべ、何も答えない狩野であった。


< 208 / 484 >

この作品をシェア

pagetop