弟矢 ―四神剣伝説―
そんなことをして逃げ出したなら、当然、乙矢は帯刀しているはずだ。


「そ、れは……そうだ、『青龍』だ。お前『青龍』を使ってただろう。きっと持ち出した神剣で見張りを……あれ?」

「――それって順番逆じゃねえか?」


ようやく自分が言っていることの矛盾に気付たらしい。新蔵は言葉に詰まった。

乙矢は地面の上にどっかと腰を下ろし、胡坐を掻いて座り込む。どうやら、いつも通りの猪野郎に戻りつつあるようだ。

崖っぷちの朝靄が晴れると同時に、新蔵の胸を覆った煙幕も消えつつあった。



「なあ、ちっとは落ち着けよ。武器庫を見張ってた里人が二人殺されたんだな? それで『青龍』一対が盗まれた。盗まれたのはそれだけか?」

「あ、ああ……高円の武器庫は派手に吹き飛ばしたからな。あんな鄙びた里に、ろくな武器があるわけないだろ」

「新蔵、もし俺が、『青龍』を抜いて里人を斬ったんなら、俺は今頃、鬼になって暴れてないか? それに……なんで俺が爾志の領地に戻ろうとしてるってわかったんだ?」

「そ、それは、一矢様が……」


口に出した瞬間、ハッとした顔で新蔵は乙矢を見た。一矢の言葉が脳裏を過ぎり、そのまま慌てて視線を逸らす、が……後の祭りだ。


「一矢が……教えたんだな? まさか、一矢に言われてお前は……俺を斬りに来たのか?」


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