弟矢 ―四神剣伝説―
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだろう。


「お前……まだ、懲りてないのか? なんで、自分を殺そうとした奴を信じるんだ!?」


そこまで言って、自分自身が乙矢の命を狙ったことに気付き、言葉を失った。


「なんだよ」

「いや、俺はなんでお前を殺そうとしたんだろう。お前は敵だから殺さなきゃならない、ってそう思い込んでたんだ」


その言葉に、今度は乙矢がドキッとした。神剣を抜いたとき、心の中に声が響いた。「敵を殺せ」と。正三も同じようなことを言っていた。そして、さっきの新蔵からは同じ波動が感じられたのだ。

だが、新蔵の持っていた、一矢から託されたという脇差、あれが神剣なわけはない。

なぜなら、あの長さで考えられるのは『青龍二の剣』だろう。今、それを持つものは、里人を殺して武器庫から盗んだ犯人に他ならない。偶然だ、考え過ぎだ、乙矢は何度も胸の中で呟く。


「里に鬼が出るなら、そこに神剣があるはずだ。取り戻そう!」


自分を必要としてくれる人間がいる。

かろうじて、座して死を待つ生き方に終止符を打ったものの……乙矢はこの時、新蔵が話した重要な言葉を、聞き漏らしていた。


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