弟矢 ―四神剣伝説―
だが、乙矢のほうは彼らから、これまでのような殺気を感じることはできない。


「落ち着けよ、新蔵。こいつら――」
 


その時、一人の兵士が乙矢の言葉を遮った。


「貴様らは、神剣の力を悪用して、幕府転覆を企む輩ではないのか? そう言って幕府を脅したために、密命を受けたあの方が狩野様や武藤様を従えて、お前たちを仕留めようとされてるんじゃ……」

「違う! 我ら四天王家――爾志・遊馬・皆実・喜多家とも、謀反など欠片も企んじゃいねえ。むしろ逆だ。あの仮面の男が、幕府乗っ取りの為に、四神剣を利用するつもりなんだ。目ぇ覚ませよっ!」


困惑の表情で問い掛ける敵兵らを、乙矢は一喝した。

これには新蔵も驚くばかりだ。初めて、彼の目に、乙矢の姿が一矢と重なる。いや、目眩ましのような強烈な光を放つ一矢とは違い、穏やかで優しい乙矢の光は心地良い。これが爾志家嫡流の証か、それとも勇者の――。


ガラガラッ。


瓦礫が崩れ落ちる音と同時に、兵士らの顔が凍りついた。最悪の予想をしつつ、乙矢らも振り返る。


「なあ、新蔵……鬼って丈夫なんだな」

「そう、だな」


いささか間の抜けた会話ではあるが、これを余裕と捉えるべきかどうか、お互いに微妙だ。


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