弟矢 ―四神剣伝説―

二、里の攻防

一刻も早く、弓月の許に行かねばならない。そんな彼らの前に『鬼』が立ちはだかった。


「なんで、こうなるんだよっ!」


里の中心部まで駆けつけた時、そこはまさしく、地獄絵図と化していた。

乙矢の叫び声に、横たわる一人の兵士が必死で腕を伸ばす。新蔵は飛びついてその手を握った。それは『我が藩主の下に戻りたい。弟を救ってくれたから信じる』そう言った、兄のほうであった。

だが――腹は裂かれ、臓腑は体内から流れ出ている。最早、彼の願いを叶える事は不可能だろう。


「おいっ! しっかりしろよ。鬼か!? 誰が神剣を抜いたんだっ!」

「む、とう……が。……生、きて……かえり……おとう、とを」

「弟? 何処だ? おいっ!」


力なく崩れ落ちる、その手を握り締め、新蔵の肩は小刻みに震えていた。


「俺の……せいか? 待ちきれず、神剣を置いてこの場を離れた、俺の」

「違う! 俺が殺さなかったからだ。あの時、武藤を……殺りさえすれば」 


血管が浮き出るほど拳を握り締め、後悔の念を吐き続ける二人の頭上に、それを断ち切るような正三の声が響いた。


「反省会は後にしろ――奴をどうにかしてからだ」


青ざめる正三の瞳は、二人の頭上を通り越し、一点を凝視する。そこに居たのは『青龍の鬼』と化した武藤だった。


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