弟矢 ―四神剣伝説―
「人のことが言えるか。俺が負わせた肩の傷は、まだ癒えちゃいないだろう」

「か、かすり傷だ!」


言われて思い出し、傷が疼き始める。


「それに……人を殺せぬお前に、鬼は倒せん。いや、ここに姫様がいたら別かも知れんが」


痛い所を突かれ、グッと黙り込んだ。乙矢の肩を掴み、正三は前に出る。


「お前はおきみを守れ。――里人にも」


不意に、正三の言葉が止まった。乙矢の拳が鳩尾(みぞおち)に食い込んだせいだ。


「こうでもしなきゃ止めらんねぇだろ? おきみ、正三を頼んだぞ!」

「おとやっ!」


膝を突く正三を残し、乙矢は新蔵の後を追うのだった。


「あの……馬鹿。怪我人だぞ、少しは手加減して行け」

「……しょうざ?」


ゆっくり立ち上がりながら、痛そうに顔を歪めている。そんな正三の様子がおきみは酷く心配そうだ。


「ああ、大丈夫だ」


(――できればこの眼で、勇者の誕生を見たいものだな)


乙矢の背中を眺めつつ、正三は心から願っていた。


< 314 / 484 >

この作品をシェア

pagetop