弟矢 ―四神剣伝説―
「おとやぁ~しょうざぁ~」

「馬鹿やろう! おきみ、出て来んじゃねぇ!」


なんと、おきみが寺の横で手を振り、声を上げている。本堂の隅にある一矢がいた小部屋に隠れるよう、きつく言い渡したはずだった。


「待て、様子が変だ」

「しょうざ! しょうざ!」


相変わらず、名前しか呼ばない。だが、おきみの必死な素振りは、正三の心に通じるものがあった。


「ひょっとして、里の連中が戻ってきたのか?」


ブンブンとおきみは首を縦に振る。


「一旦静まったので戻って来たのだろうが……まずいな。もし、武藤の目に入れば恰好の獲物だ」

「俺が、止めます! 織田さん、後、お願いしますっ!」

「待て、新蔵っ!」


正三が叫んだ時、既に新蔵は走り出していた。チッと舌打ちし、後を追おうとしたが、その手を乙矢が引き止める。


「俺が行く」

「駄目だ」

「なんでだよ。第一、あんたにはもう、戦う得物もねぇだろがっ! それに」


全身傷だらけだ。背中の傷も深手ではないが、かすり傷とは言い難かった。そんな正三に、これ以上戦わせる訳にはいかない。


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