弟矢 ―四神剣伝説―
「始末せよ」


近習の者に短く命じると、軽く血糊を振り切り、刀を腰にしまった。
 


何が精鋭部隊だ。その愚図に簡単に手玉に取られているではないか。

あの方の言うとおりだとすれば、逃がしてやったのではなく、生餌のフリをしていた、ということだろう。
 
 

狩野は天守閣を目指しながら妖しげな笑みを浮かべる。

四神剣など妖刀村正と同じようなものだ。いわくつきの剣を集めたに過ぎぬ。四天王家などというご大層なものを創り上げたのは、反乱を封じるための時代の覇者が講じた策に違いない――彼はそう考えていた。


だが、伝説の域を出ていないにせよ、勇者の血脈は絶やさねばならない。
そして『青龍二の剣』だ。『青龍』は二本で一対。一本なら、四天王家の血を引く人間であれば、勇者でなくとも鬼にならず、使える者がいるという。

ただ、あくまで可能性だ。
それもかなり危険な賭けとなる。限りなく勝ち目のない賭け……何しろ、一人も勝った者がいないのだから。
 

我が蚩尤軍が最後の一本を手に入れた時、四天王家は反乱軍の汚名を雪ぎ、復活する。

そうなってようやく、将軍家は猛獣を檻から解き放った事に気付くだろう。

だが、後の祭りというものだ。

蚩尤軍が幕府の正規軍となり、あの方が真の将軍となる。

――勇者の血を引く最後の一人として。


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