弟矢 ―四神剣伝説―
不意に現れた新蔵に、当然の如く敵兵は斬りかかる。

一体、何人と刀を合わせ、何人を斬ったのだろう……その時だ。


「ほう。武藤の鬼に同門の剣士を殺され、血迷うたか?」


新蔵の前に立ち塞がったのは、狩野天上であった。


見たことがあると思った。

高円の里で、新蔵らが身を伏せる反対側から姿を見せた男――この男が敵将に違いない、と新蔵は確信する。


「……貴様が、援軍の将に相違ないな」

「いかにも。狩野天上と申す。御見知り置き下され」


完全に新蔵を小馬鹿にした態度だ。

だが、狩野の名にも聞き覚えがある。爾志家の領地に向かう手前、佐用の山中で乙矢に追いついた時、敵兵が口にしていた名前が「狩野」だった。


「血迷いついでに貴様の首を貰おう。鬼と化した武藤と仲良く並べてやる。――覚悟しろっ!」


口上と共に踏み込み、一撃必殺を狙った。

だが、新蔵が渾身の力を籠めた初太刀はいとも簡単にかわされ――ハッとした時、白刃が目の前に迫っていた。

この勝負に二の太刀はない。

身を翻し、避けようとした新蔵の足元がもつれる。倒れ込むことは踏み止まったが――新蔵の背に焼け付くような痛みが襲った。


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