弟矢 ―四神剣伝説―
狩野は右腕を押さえながら……とうとう乙矢から視線を外した。


「引け……ものども、引けぃ」


そう言うと、自らが真っ先に背を向け、一目散に逃げ出したのであった。


「狩野さま……腕でございます」


逃げる途中で狩野の腕を拾ってきた兵士が、それを差し出した。


「そのようなものを、この私に見せるな! 犬にでも喰わせてしまえっ!」


いつもであれば気に入らぬ兵士など、すぐさま一刀両断にする狩野だが……今はそれすら儘ならない。

悔しさのあまり噛み締めた唇は真っ赤な血を吹き出し、口元を真紅に染め上げた。


「よくぞやってくれたな、爾志乙矢め! 必ずや奴の両腕、もぎ取って見せるぞ! 覚えておれっ!」


狩野らしからぬ負け犬の遠吠えに、部下たちは一人、また一人と離れて行くのだった。


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