弟矢 ―四神剣伝説―
「決まってる! 連中に俺たちの居場所を教えて命乞いしたのだ。それでここまで逃げてきたのだろう。違うのかっ!?」


正三の問いに、乙矢より先に新蔵が答える。


「新蔵! 貴様は黙っとれ!」


長瀬に一喝され、さすがの新蔵もしゅんとなった。長瀬はそのまま乙矢に向き直り、


「乙矢殿、正三の問いに答えて頂こう。返答しだいでは拙者がおぬしを始末する」


それは、静かだが充分な威嚇であった。柄に手も掛けていないのに、全身から沸き立つ殺気に、乙矢の足が竦む。



だが……なぜ来たのかと問われても、それは乙矢にもよくわからなかった。

この一年間、弓月らとって心の休まる時はなかっただろう。

それは二矢も同じだ。しかも、彼はたった一人、助け合う仲間も身内もなく、ただ一矢の生存を信じて逃げ延びた。なんとしても、一矢に会い、伝えなければならない言葉があったからだ。その後は……。

 

お六が蚩尤軍に、乙矢を訪ねた浪人たちの存在を密告し、奴らは乙矢まで狙った。

これまでも、見張られていることには気付いていた。四天王家の残党を釣り上げるための餌にされていることにも、だ。


弓月らが望みを託して乙矢の元に来たように、乙矢も最初に訪ねて来るのが、一矢であることを願っていた。一矢が死んだはずはない。どれほど離れていても、それだけはわかるつもりだ。


< 36 / 484 >

この作品をシェア

pagetop