弟矢 ―四神剣伝説―
一矢は畳み掛けるように、


「桐原の生死はわからぬが、乙矢は総勢百は下らぬ兵士を里に呼び込んだようだ。いずれ、無事ではおるまい」
 
 
不気味な静寂が辺りに広がる。

弓月より早く立ち直った長瀬が、別の方向から一矢を問い詰めた。


「おぬしの後ろに立つのは蚩尤軍の兵士ではあるまいか? なぜ、そのような報告がおぬしにくるのだ」

「この男は、私が奴らの動向を知る為に送り込んだ間者だ。備前の代官所に報告に行くと抜け出し、知らせてくれた」


スッと手を払うと兵士は闇に消えた。他に軍勢を引き連れている気配もない。何を信じれば良いのか……長瀬にもわからなくなる。

だが、事実がなんであれ、弓月を守ることだけは果たさねばならない。


万に一つも、一矢の言う通りだとすれば……。

正三と乙矢が死に、新蔵も生死不明なら、弓月を守れるのは自分と凪の二人のみということになる。


「……脇差を抜こうとしたのは、低木の近くで大刀を振り回すのは適さぬと思っただけだ。美作の関所と事情はなんら変わりない。弓月殿、これでわかったであろう? 乙矢は所詮、私のまがい物に過ぎぬ、と。これ以上、裏切り者に心を乱すのはやめられることだ。――先に戻らせて頂く」


長瀬には何も言い返せなかった。

茫然自失の弓月を残し、一矢は去って行く。警戒して身構えていた長瀬は拍子抜けだ。


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