弟矢 ―四神剣伝説―
弓月は軽い眩暈を覚え、足元がふらつく。

だが、『仮面の男の正体』の一言に、彼女の嘆きは怒りへとすり替わった。

父の、一門の仇を討つ。それだけは捨て切れない憎しみだ。


凪は弓月にこの恨みを捨てさせたいと思っていた。そして、それができるのは乙矢のみ。乙矢への恋心だけが、弓月の心を暗黒の淵から救い上げることができる。

そしてそれは弓月だけでなく、四天王家全体にとっても大きな意味を持つことだった。



「狩野であったな。答えよ。仮面の男の正体を! この刀に懸けても、口を割らせて見せるぞ!」


弓月は一歩踏み込むと刀を抜き、正眼に構えた。更にもう一歩――その時だ。


「いけません、弓月どの! この男、神剣を持っております!」


凪の頬が引きつり、焦眉(しょうび)の急を告げる。


ゆらっと狩野が動いた半瞬早く、弓月は後方に飛びずさっていた。


狩野は手にしたそれを一気に引き抜き、鞘を草むらに投げ捨てる。そして、抜き身の刀を左手に持った。


朝の清んだ光を浴びながら、それは白濁の輝きを放ち……。  


「まさか――『白虎』!」

弓月の声は衝撃に震えていた。

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