弟矢 ―四神剣伝説―
なぜここまで恨まれるのか、と疑問に思っていた。

憎しみの正体は、乙矢が心の奥底で一矢に抱き続けた想いと同じ、劣等感だった。
 

身を隠していた宿場町で、どんな罪を犯したのだとお六に聞かれ、乙矢は『何もしなかったのが罪だ』と答えた。それは、乙矢のあずかり知らぬ所にある真実だった。

兄への信頼を隠れ蓑に、どうせ自分は二番矢なのだと卑屈になり、どうせ負けるのだからと、戦わずに一矢から逃げ続けた。

そんな自分の罪を、まざまざと見せ付けられる。

一矢を鬼にしたのは乙矢だ。


一矢は『青龍一の剣』を脛下段に構え、乙矢と間合いを取った。

乙矢も同じ構えで一矢と対峙する。それは、得物が短い分だけ不利というようなものではない。今の乙矢は、八年前に逃げ出した罪の意識と、初めて知った父の思惑があいまって、気迫で一矢に負けている。


弱みを見せれば、そこを一矢が衝かぬはずがない。

どす黒い醜気を叩きつけ、一矢は間断なく攻め立てる。

一矢が左下より逆袈裟に斬り上げた――その剣先を乙矢が見切った一瞬、一矢は中段の位置で切っ先を止め、一歩踏み込み、乙矢の右手を突きにいった。

乙矢は慌てて脇を締め、体を引くが、『青龍』は乙矢の親指を狙う。

指を落とされては剣が握れない。剣を避け、手を開いた所を引っ掛け、ついに脇差は弾かれた。そのまま剣先は乙矢の喉元を襲う。

一矢の中段の突きを避けるのに、勢い余って乙矢は地面に仰向けに倒れ込んだ。

瞬刻、乙矢の胸を一矢は足で踏みつけ――


「これで最期だ。乙矢、死ねい!」


一矢は『青龍一の剣』を素早く逆手に持ち替え、呵責に迷う乙矢の胸に、一直線に振り下ろした。


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