弟矢 ―四神剣伝説―
「正三が『青龍一の剣』を取り戻してくれたんだ」――乙矢はそう言った。


一矢は、紛れもなく正三を死に追いやったのだ。ここに正三がいないことが、何よりの証。

大事なものを失い続けてきた悲しみは、その手の中に神剣『朱雀』を抱いた時、殺意と言う名の蝋燭に赤い炎を点した。


――我を手に。赦せぬ者を、断罪するための力をお前に与えよう。


「断罪……力……」
 

――勇者の名の下に、正義を行う力をお前に与えよう。


「正義を……」


自分が女でさえなければ、自分に男と比べても、遜色のない力さえあれば、もっと多くの人間が救えた。自分に力さえあれば……。その思いが、弓月の心を血の色に染めていく。


弓月の手は『朱雀』の柄を握った。鞘は『朱雀』から離れ、地面に吸い込まれるように落ちる。

そして、視線の先には一矢がいた。乙矢の手から刀を弾き、倒れた乙矢に『青龍』を振り下ろす一矢が……。



「一矢ぁっ! 貴様だけは許さぬ!」


弓月は『朱雀』を手に、一矢に斬りかかった。


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