弟矢 ―四神剣伝説―

五、終局目前

乙矢の言った通り、駆けつけて来たのは幕府正規軍の一団であった。

乙矢を見張り、弓月らを追い詰めた蚩尤軍は、まるで長い悪夢から目覚めたように、跡形もなく消え失せたのである。


「凪先生、生きてるか?」

「私は……かすり傷です。心配には及びません。それより、乙矢どの――その足、避けられたのではございませんか?」


かすり傷な訳がない凪だが、どうやらお見通しらしい。乙矢は、ばつが悪そうに横を向いた。皆、呆れた表情だ。


「お前はまだそんな甘いこと……。勇者の自覚はないのか!? 馬鹿者めっ!」


長瀬の口調は怒っていたが目はそうでもなかった。

そこに弥太吉が、なぜか手を揃えて突き出し、乙矢の前に出る。乙矢は頭を捻りつつ、弥太吉に尋ねた。


「な、なんだよ。弥太……お前、何やってんの?」

「おいらは、あの男に言われるまま、里に残った人たちを見殺しにして……姫さまの命を危うくしました。おいらも裏切り者です。だから、お縄にして下さい……どんな罰も……受けます」


そう言うと、弥太吉は深く頭を下げ、しゃくりを上げて泣き始めた。


「馬鹿を言うものではありません、弥太。お前が鬼に惑わされ罪を犯したというなら、私も同じです」


弓月は優しい声で弥太吉に話して聞かせ、最後にギュッと抱き締める。

乙矢も軽く笑いながら、新蔵を指差して言った。


「そうそう、お前が裁かれるくらいなら、まずコイツだろ? 猪野郎が獄門になるほうが先だぜ」


新蔵にしたら、怒鳴りたくても怒鳴るわけにいかない。だがその通りとも言えず、グッと我慢する。


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