弟矢 ―四神剣伝説―
兵士たちが戸板を持って来た。怪我人を運ぶ為だ。乙矢や凪の横にも置かれたが、まずは一矢が先だろう。


「乙矢殿、一矢殿は助かりそうですか?」


遠くから一矢を見つめる乙矢に、弓月が声を掛ける。


「どう、かな。本気で腹を刺してたからな。それに……」


助かったところで、よくて切腹。おそらくは、打ち首のうえ獄門台に晒される。そんな言葉を乙矢は飲み込んだ。

その時、幕府正規軍の兵士から神剣を回収して欲しいと頼まれ、乙矢が立ち上がった。

『白虎』は乙矢の腰にあるが、『青龍一の剣』は草むらの中に、『朱雀』は森の木に突き刺さったままだ。


「乙矢殿、『青龍』は私が参ります。鞘がありますのでご安心下さい」


そう言うと、弓月は早々と『青龍』が飛んだ辺りに駆けて行った。「おいらも手伝います」と弥太吉が後を追う。

『朱雀』は、乙矢とて持てるかどうか不明だ。しかし、人に任せる訳にはいかない。

新蔵に肩を借り、二人して森に向かうが……。


「なあ、乙矢」

「なんだ?」

「『朱雀』が見えんのだが……」

「馬鹿言うなよ……落ちたんじゃねぇのか?」


乙矢も慌てて視線を巡らす。だが、ブナに刺さったはずの『朱雀』は真下にも落ちておらず――。


まさに、静寂は寸閑(すんかん)。津山の山あいは、再び、阿鼻叫喚の巷と化した。 


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