弟矢 ―四神剣伝説―
一年も姿を隠したままであった一矢を責めた時、『……東国からの帰路、蚩尤軍に襲われ瀕死の重傷を負いました』そう言い訳したのである。

体に残った刀傷を見せられ……誰もが、その言葉を信用した。


「待てよ。それってどういう意味だ? 父上の言葉がきっかけだったんだよな? そのせいで、八年前あいつの中で目覚めた鬼に、耳を貸しちまったんだろ?」


乙矢には、一矢が悲鳴のように叫んだ言葉が、偽りだとは到底思えなかった。


「その通りだ。私の誘いに耳を貸す、よいきっかけとなってくれた。奴は奴なりに、己の内に巣食う鬼と、長年戦い続けていたのだからな。知っておるか? 一矢は本物の勇者になりたかったのだ。それも乙矢――お前を守るために」


宗次朗の言葉に、乙矢は目を伏せた。

そんな『白虎』の勇者を見て、宗次朗はほくそ笑む。


「可哀想な男だ。猫の分際で虎を守ろうとは……。いや乙矢、お前が奴を張子の虎に仕立てたのであろう? 『朱雀』でけしかければ、たちまち奴の鬼は目を覚まし、東国から『青龍一の剣』を持ち帰ったぞ。その後も城に留まり、見事に蚩尤軍の総大将を演じておった。ああ、奴に問うても無駄だ。奴は、この私を殺したと思っておる。私を小姓に据え置き、最強にして唯一の勇者となるために利用した、と」

「それも全部、俺のせい、か?」


顔を上げ乙矢は答える。

その言葉と共に、『白虎』を取り巻く気配が変わり始めた。 


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