弟矢 ―四神剣伝説―

三、四天王家に生まれて

「そこまでして、俺に『白虎』を抜かせたかったわけか……」


乙矢は悲しげな目をして宗次朗を見た。「乙矢が『白虎』の勇者だから」――逃げる一方の乙矢に神剣を抜かせるために、宗次朗は妻子をも殺したというのか? 


やはり、神剣は人の手により受け継がれるべきものではない。

いや、そうであってはならないのだ。


乙矢はその思いを強くした。このとき、未来に自分の為すべきことを心に決めたと言ってもいい。


「乙矢、これは私自身の願いではない。四天王家に生まれた者の宿命なのだ。私は『朱雀』に選ばれ、お前は『白虎』に選ばれた。それ故に」


乙矢は急に声音を変え、宗次朗の言葉を遮る。


「宗次朗――寝言は寝て言え」


言うなり、乙矢は懐から紐を取り出した。片方を口に咥え、解けた髪を後ろで結わい付ける。


ほんの二十日前、上弦の月に照らされ映し出された少年の横顔は、最早そこにはない。己の弱さを正面から受け止め、それでも“守るため”に戦う、ひとりの男がいた。


「御託はもういい。そんなにやりたきゃ、『白虎の主』として俺が相手をしてやる。但し、弓月殿を離すんだ」


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