弟矢 ―四神剣伝説―
宗次朗が見せた動揺はほんの一瞬だった。微笑の裏で、奥歯を噛み締めた程度。


「残念だが、それはできんな」

「――殺すぞ、宗次朗」


乙矢から沸き立つ殺気に、長瀬や新蔵は息を呑むことしかできない。

宗次朗の拒否で、それは更に強くなる。


直後、宗次朗は口笛を吹いた。

森の中から一頭の鹿毛馬(かげうま)が、宗次朗目掛けて駆け寄る。馬は、呼ばれるのを待っていたかのようだ。

宗次朗は素早く手綱を確保すると、弓月を馬上に押し上げた。そして、その弓月を抱え込むように、自らもひと息に跨る。


「長く待ちわびた勇者との一戦だ。邪魔の入らぬ場所にさせてもらうぞ」


そう言うと、森に駆け込もうとした。

だが、宗次朗の行動に、乙矢のほうが血相を変える。


「待てっ! まさか――南国まで来いとか言うんじゃねぇだろうなっ!」

「場所はその男に聞け!」


宗次朗は短く言い捨てると、強く馬の腹を蹴った。

鬼や神剣に怖気づき、腰の引けた正規軍兵士らに引き止めることなどできるはずもない。彼らを蹴散らして、宗次朗は走り去った。


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