弟矢 ―四神剣伝説―
だが、間に入った弓月が、手にした刀を綺麗に一閃、矢は真っ二つにした。

そのまま、流れるような動作で弓月は刀を持たぬ方の腕を振り上げた。直後、二本目の矢を番えようとした敵の喉元に短剣が刺さる。
 

さすが、遊馬一門の姫だ。『青龍二の剣』を背負うだけのことはある。腕力と体力は男に劣るが、それを補って余りある技術と鋭い剣速は、身の軽さゆえだろう。

それは弓月だけではなかった。先代は一門の三強を娘のために付けたのだろう。
 


まるで猪の如く、乙矢に突撃してくる新蔵だが――そんな彼も、最年少で師範になるだけのことはあった。

戦いに集中した時の剣捌きは、非常に丁寧で的確なものだ。

ただこれは、感情が先走ると怪しくなるのだが。



むしろ、予想外に白熱した戦闘を見せてくれたのは正三だった。

剣を抜くと気分が高揚する性質らしい。

通常、二尺二寸程の刀持つが、彼は長身のため、二尺五寸はある刀を持っていた。乙矢に渡そうとした脇差からして、二尺はありそうだ。

刀も腕も長い正三の間合いに、誰も入り込めない。右往左往するうちに、刀の錆となっていく。さっさと逃げればいいのに、と敵に同情するのは乙矢くらいであろう。



一方、宿場の関をほとんど一人で打ち破りつつあるのが、師範代筆頭の長瀬賢悟だった。

豪胆という言葉がこれほどピッタリくる男もおるまい。

乙矢を守る為、弓月が遅れを取ってしまい、長瀬が突出した格好になってしまった。本来なら、かなり危険な状態だ。


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