アイドルな王子様
 それから暫く後、私たちはホテルに程近い繁華街の、創作イタリアン居酒屋で向かい合わせに食事をしていた。

 聖夜さんはホテルの上階のレストランに誘ってくれた。

 どうやら、民宿の娘さんに「女の子との初デートならお洒落なレストランじゃなくちゃダメ!」と、ダメ出しされたらしい。

 折角のお心遣いだけれど、生憎私は男のひとと食事に行くことなんて殆どなくて、ましてや高級レストランなど緊張しちゃうから、丁重にお断りした。

 だって、他ならぬ聖夜さんと食事ってだけでもう胸いっぱい、お腹いっぱい。

 そんなときにかちこちのマナーなんて考えながら戴くこと出来ないもん。



 そんなこんなでレストランをご辞退し、彼に連れられてやってきたのがこの居酒屋。

 居酒屋っていう割には、店内は内装も凄くお洒落で雰囲気が凄くいい。

 珪藻土で作られた仄暗い空間に、天井から吊された硝子製のランプが淡い光を放っている。


 向かい側に座る聖夜さんの顔には、深くはっきりとした陰影が浮かび上がって、その長い睫の影がとても色っぽく感じてしまう。

 男のひとに“色っぽい”という表現はおかしいかも知れないけれど、髪を切ってその端正な顔立ちが露わになった彼にはぴったりの形容だと思う。


「どしたの? 食べないの?」


 次々と運ばれてくるお皿は、もう四人掛けのテーブルを埋め尽くしていた。

 いけないいけない。

 思わず、聖夜さんに見惚れていたわ。


「い、戴きます、戴いてます」

「やっぱり具合悪いんじゃないの?」

「え? 全然? 元気ですよ」


 ええ、ただ胸の動悸が尋常じゃないだけで。





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