ふたり。-Triangle Love の果てに

その日の夕方、私は泰兄が学校から帰ってくるのを門の前で何時間も待っていた。


辺りはしだいに紅に染まってゆく。


長い影が坂道に見えた。


泰兄だ…


かばんを片方の肩にかつぐようにして歩いてくる。


逆光で表情まではわからない。


私は緊張して、手を握りしめた。



スニーカーを引きずる音が、だんだん近付いてくる。


泰兄…


そう呼びかけようとしたけれど、声が出なかった。


左のこめかみに大きなガーゼが貼り付いている。


泰兄はまるで私のことなど視界に入っていないかのように、横を通り過ぎた。


「待って!」


うわずった声に、ようやく彼は振り向いた。


「けが…大丈夫?」


「ああ」


「痛かった?」


「別に」


「そうなんだ…」


「おい、そんなとこにいたら、またいなくなったって大騒ぎになるぞ」


「うん…」


歩き出した泰兄の後ろをトボトボとついてゆく。


7歳になったばかりの私には、その後ろ姿がとても大きく見えた。


「おまえさ、マコトって名前なんだろ?昨日初めて知った」


1年以上も一緒に生活してるのに?そう思った。


「うん、そうだよ」


「男みたいな名前だな、マコトって」


そう言って、クククッとかみ殺したように笑った。


カタギリマコト…


私はこの名前が嫌いだった。


彼の言う通り、マコトって大抵は男の子に付けられる名前。


幼稚園でも、小学校でもよくからかわれた。


もっと女の子らしい名前がよかった、それが本音。


でもお父さんとお母さんが残してくれた大切なもの。


嫌だって思っちゃいけないんだけど…


でも真琴という名前がとても嫌い。


そして名前を嫌いと思う自分がもっと嫌い…


そんな幼心の葛藤に、泰兄のその一言は効いた。


悔しくて私は泣き出した。

< 25 / 411 >

この作品をシェア

pagetop