ふたり。-Triangle Love の果てに
~相原泰輔~
1年くらい前になる。
俺がYesterdayの奥のカウンターに立つ女を見た時、すぐにわかったんだ。
昔「男みたい名前だな」って言って泣かせた、瞳のきれいな少女だって…
今は白いシャツに黒いベスト、赤い蝶ネクタイ姿で2つ向こうのカウンターに立つ。
ほの暗い光の中でシェーカーを振るあいつに、俺は不覚にも釘付けだった。
凛とした横顔は当時と変わっていない。
赤い口紅と後ろにまとめた髪が、実際よりも彼女を年上に見せるが、確か歳は今年で22、3になるはずだ。
「新しい子?」
俺はマスターに訊いた。
「ええ、そうです。片桐というんですが、なかなかの美人でしょ」
マスターの自慢げな答えに、隣の見知らぬ客が突っ込む。
「マスター、ああいう感じの子、好きだよねぇ。一昔前の女優さん、みたいなの」
「あはは、バレた?でもね、あの子はそんなんで雇ったんじゃないんですよ。一生この道で生きていきたい、将来自分の店を持ちたいって言ってね」
「今時の若い子にしちゃあ、珍しくて感心なことだけどねぇ。女の子がこの仕事ってのもきついものがあるよね」
隣の客とマスターの会話を聞きながら、横目であいつを見ていた。
「おや、相原さん。あの子のこと気になります?」
「まあね」
俺はウィスキーを一口飲むと言った。
「さすがマスターですよ。きっといいバーテンダーになります、彼女は」
「相原さんがそう言うなら間違いないなぁ。なにしろ高級クラブのオーナーだから、女性を見る目は確かですしね」
「そんなことはありませんよ。でも俺がそう思ったのは、彼女の服装がきちんとしているからですよ。それだけで、本人がどれほどの熱意をもって取り組んでいるか、一目瞭然です」
「なるほど」
「カッターシャツに折り皺ひとつない。糊もきいているし、言うことないですね」
「おっと相原さん。ホステスに引き抜こうだなんて考えてないでしょうね。だめですよ」
マスターが白い歯を見せた。
「女性を口説くのは得意なんです。ちゃんと見張っておかないと連れて行きますよ」
俺も冗談で答える。
あいつのことを褒めたのはお世辞でもなんでもない。
率直な意見だ。
片桐真琴…
マコ、そう呼んでやるって昔言ったのに、一度もそう呼んだことなかったな。
ほんの数メートル先で、マコは客を相手に談笑している。
なぁ、マコ。
おまえはきっといいバーテンダーになる。
俺のカン、だけどな。