ふたり。-Triangle Love の果てに
高校を卒業すると同時に、俺は豊浜の施設を出てこの街のはずれにある大型パチンコ店に住み込みで働き出した。
客の手元の灰皿を、手早く新しいものに替えていく。
そして、帰った客のゴミや手垢のついた台を磨き上げる。
煙草の煙の充満した店内で、俺は与えられた単純な仕事を淡々とこなしていた。
給料は寮の部屋代などを差し引けば、わずかしか残らない。
だが、それを不服に思うことはなかった。
なんてったって、あの施設を出られたんだからな。
それに面倒な人間関係も、ここでは無縁だった。
判を押したような変わり映えのしない日々だったが、自由を手に入れた俺は気ままに仕事場と寮を行き来していた。
そのパチンコ店で働き出して半年ほど経った時に、その事件は起こった。
俺の担当するレーンに、中年の巨漢男が何時間も玉を弾いていた。
椅子が肉でうもれるくらい、でかいやつだ。
てかてかと脂の浮いた顔で、煙草をしきりに吸いながら機械に向かって悪態をつく。
「おい、兄ちゃん!小便に行ってくるから荷物見とけ」
その男は、どっこらしょ、と立ち上がると狭い通路を窮屈そうに抜けていった。
汚ったねぇなぁ…
男の台はスナック菓子のカスと油にまみれ、灰皿は吸い殻の山と化していた。
俺は灰皿を交換し、菓子の食べかすを取り除いた。
数分で戻ってきたその巨漢男は、何食わぬ顔で再び台の前で座り玉を打ち始めた。
それからしばらくしてからだった。
男は脂肪まみれの腹を揺らしながら俺の前までやってきたかと思うと、突然胸ぐらをつかんだ。
「おまえだろ!」と言いながら、自分の台まで俺を引きずってゆく。
「ここを片付けたの、おまえだろ!」
「はい、そうですが。それが何か」
乱れた服装を正しながら、俺は答えた。
何だって言うんだよ…
次の瞬間、巨漢男の口から信じられない言葉が飛び出してきた。
「おまえが片付けたせいで運が逃げちまっただろ!あ?当たりが出そうだったのによぉ」
おいおい、何言ってんだよ、このおっさん。
馬鹿馬鹿しくて、俺は思わず鼻で笑ってしまった。
いい大人が情けねぇ、でかいのは図体だけかよ、ってな。
「クソガキが!今笑ったろ!どうなってんだよ、ここの店の従業員の教育はよ!店長呼んでこいよ、店長!」
巨漢の野太い声が、騒がしい店内でも充分に響き渡った。