ふたり。-Triangle Love の果てに
まだ残暑が厳しいというのに、グレーのスーツを汗を一滴もかかずに着こなした男が、こちらに向かってきていた。
「オーナー」
店長が恭しく頭を下げたので、とりあえず俺もそれに倣う。
30代前半だろうか、長めの前髪の下からは鋭い光を放つ瞳があった。
「お客さま、若い者が大変失礼をいたしました」
そう言って、黒革の長財布からあるだけの紙幣を取り出すと、巨漢男の手に握らせた。
10万なんてもんじゃない。
あまりの大金に、金をせびった男の方もびっくりした顔をしている。
「今回はこれでお許しいただけないでしょうか」
丁寧だが、威圧的な言い方だった。
「ま…まぁ、そういうことなら」
上ずった声でそう言うと、男はそそくさと逃げるように店を出て行った。
スーツ姿の男が現れてから、ほんの1分足らずの出来事だった。
「オーナー、申し訳ございません」と店長が腰を折った。
「あの男は今後出入り禁止にしろ。やつは他の店舗でも難癖をつけては金をせびっている」
「承知いたしました」
オーナー、と呼ばれる男と目が合った。
「おまえ、歳は」
「19です」
「店長、こいつを連れて行ってもいいか」
「ええ、もちろんです」
「ちょっ、ちょっと待ってください!仕事がまだ…」
俺は激しく首を横に振った。
連れて行くってどこに?
まさかさっきの金を返せって言うんじゃないだろうな。
「いいから来い、悪いようにはしない」
店長が俺の手からダスターを取り上げると、「早く行け」と背中を強く押した。