ふたり。-Triangle Love の果てに


彼女が帰ってから、時が経つのも忘れてぼんやりとしていた。


目の前では、うっすらと口紅のついたガラスコップの中の氷が完全に溶けていた。


お兄ちゃんの婚約者、北村翠さん。


好感の持てる女性だった。


きれいだし、知的だし。


彼女とならきっとお兄ちゃんもうまくやっていけると思う。


「仲直り、ね」


ぽつりと呟いてみる。


言葉にするとなんて軽い響き。


仲直り。


子ども同士ならば後腐れなく、全てのことを水に流してお互いの手を取り合って「ごめんね」で済むだろうに。


私たちはおそらくそうはいかない。


だって、この間お墓参りで会った時には私たちを許してくれたようには全然見えなかった。


でもね、お兄ちゃん。


私は、お兄ちゃんの結婚を心から祝福できるわ。


それだけは確かよ。


でも、翠さんの言うようにはなかなかいかないのも事実。


そんなことを考えながら、今日何度目かの重く深いため息をついた。


勝平さんがインターホンを鳴らすまで、私はすっかりシトラスのバイトのことを忘れるほどに悶々としていた。


慌てて支度をして部屋を飛び出す。


シトラスでは今日も同じ時間に橘さんがやって来た。


彼のところに泰兄と結婚の旨を報告に行ったのは、つい数日前のこと。


普段は着ることのない落ち着いた色のワンピース姿で緊張する私を見て、橘さんは「シトラスで会う時と雰囲気がまるで違うな。てっきり泰輔が別の女性を連れてきたのかと思って焦ったよ」と冗談を言って和ませてくれた。


「とにかくめでたいことだ。お互いが必要とし合って一緒になるのが、一番いい」


そう言ってはくれたけど、当の本人は相変わらずゆり子さんとの具体的な話は出てこない。


世の中には愛の数だけいろんな形があるのだ、と泰兄が言っていた。


なるほど、と思う。


私たちは結婚という愛の形を選んだ。


橘さんとゆり子さんは、現状維持という愛の形を選んだ。


お兄ちゃんと翠さんにもそれなりの愛があるはず。


あのふたりには絶対に幸せになってほしい。


絶対に…
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