ふたり。-Triangle Love の果てに
キッチンでひとりコーヒーを淹れる。
いつもは泰兄がしてくれるのに、自分でしなくちゃいけない。
もうそれが3日目になっていた。
琥珀色の上から牛乳をたっぷり入れ、一口飲んでから首を傾げる。
やっぱり泰兄の淹れてくれたほうが、おいしい。
ね、早く帰ってきて…
あの甘いカフェオレを、私だけのために作って。
たったの3日しか離れていないのに、彼に聞いて欲しいことがたくさんある。
甘さの足りないカフェオレを飲みながら、メールのチェックをする。
「もう…」
顔をしかめたのは、カフェオレが苦いからじゃない。
泰兄から何の連絡もないから。
電話はもちろん、メール1通すら寄越してくれない。
こんな広い部屋で女がひとり。
「大丈夫か」の一言があってもいいと思う。
「ほんっと、意地悪なんだから」
真っ白な天井を見上げて、思わず呟いていた。
乾かさないまま寝たおかげで、ボサボサになった髪を無造作にまとめると、バスルームに向かった。
外出する時は、どんな時も勝平さんに連絡を取らねばならない。
30メートル先のコンビニに行くのでさえも例外ではない。
黙って外出してもいいけれど、何かあって責めを負うのは私ではなく勝平さん。
それに相原泰輔の女はふらふらと勝手に出歩いてばかりで困る、そんな噂がたっては泰兄の顔に泥をぬることにもなりかねない。
だから必ず連絡を入れる。
勝平さんはいつでも「お疲れさまです」なんてさわやか笑って頭を下げる。
もう鶴崎組のルリさんのような「世界」に足を踏み入れた気がして、ちょっと複雑。
「今朝、泰輔さんから電話がありまして、くれぐれも真琴さんから目を離すなと念を押されました。心配なんですね」
「そうですか、電話が…」
私には連絡ひとつ寄越さないくせに勝平さんには電話で話すんだ、と内心憎らしく思ったけれど、彼の少年のような笑顔はそれをまたたくまに打ち消す。
そこで見栄を張った私。
「私のところにもありました。元気か、ってそれだけでしたけど」
得意げに顎を上げながらそう言うと、へぇぇ…と彼は目をまんまるにした。
「本当に?」
「え、ええ…」
「俺なら、嫁には自分からは絶対に連絡しません」
「どうしてですか?」
「だって、嫁に何もかも任せて家を空けてるんです。連絡しないのは、そいつを信頼してるという証拠だからです」
胸を張って言い切った勝平さん。
「俺は、それを泰輔さんから教わりました」
「……」
見栄っ張りの私の嘘は、完全にばれてるみたいだった。
何もかも任せて、信頼してるから、ね…
そう思うことにしよう。
肩をすくめた私に、勝平さんは優しく微笑んだ。