ふたり。-Triangle Love の果てに
「えっと、相原さんでしたっけ、恋人の…。彼はいつ帰って来るんですか?」
水を一口飲んだ翠さんに合わせて、私もグラスに口をつける。
「来週末です」
言い終わると同時に、口の中に冷たさと微かなレモンの味が広がった。
私は、こういう繊細な味をそっと演出するお店が好き。
でしゃばりすぎず、かと言って水という無味無臭のものにそっと密かに華を添える。
気付かない人にはきっとわからないくらいの、小さくてささやかな心配り。
きっとここのオーナーは繊細な人なんだと思う。
「真琴さんの彼氏って何の仕事をしてるの?」
グラスにじっと視線を落としていた私に、翠さんが訊いてきた。
「えっと…」
彼女はまだ何も知らないんだ。
私が暴力団幹部と付き合ってること…
もし知ったら、お兄ちゃんとの結婚はどうなるのかしら。
言いよどむ私に、彼女は「今流行りのIT関連ってやつ?」と小首を傾げた。
確かにここ最近はよくパソコンの前に座っているけれど…
「え、ええ、まぁそんな感じの…」
いつかバレてしまうことなのに、私は嘘をついた。
今の時点でこれ以上泰兄のことを訊ねられても答えられないと思った私は、お兄ちゃんと翠さんの出会いについて話を振った。
そのことを別段訝しがることなく、はにかみながら彼女は話す。
幸せなんだな、ってそう思う。
私も泰兄との入籍を控えているから、翠さんの気持ちがよくわかる。
彼女の話では、お兄ちゃんと同じ地域面担当だった頃に何度か一緒に仕事をしたことがあって、いいなぁって思っていたそう。
だけど、なかなか気持ちを打ち明ける機会がないまま、春の異動で翠さんは他部署に移ることになった。
不安で落ち込む彼女を励ましたのが、お兄ちゃんらしい。
「彼と婚約できるなんて、まだ夢を見てるようなの」
そう言って頬を赤らめる。
「兄も翠さんのような素敵な女性と一緒になることができて、幸せだと思います」
「もうっ、真琴さんったら」
耳まで赤くなったところで、料理が目の前に運ばれてきた。
左手にナイフ、右手にフォークを持った彼女を見て「あ、左利きなんだ」と何となく思った。