ふたり。-Triangle Love の果てに


「もう動くのか?」


少し膨らみを帯びたお腹に、彼の手のあたたかさが伝わってくる。


「ええ。時々小さく動いてるのがわかるわ」


今、私のお腹には美月に続き、新しい命が宿っている。


男の子か女の子かまだわからない。


でもどっちでもいい、私たちの子に変わりないんだもの。


私と泰輔の間に生まれてきてくれるだけで、それだけで充分。


「この子が女の子だったら、またあなたはお嫁に出す心配をしなきゃならないわね」


お腹をさすりながら、私は冗談めかして言った。


「おまえこそ。もし男だったら、将来どんな嫁をもらうのか気が気じゃないな」


「そんなことないわ」


「うるさい姑になりそうだ」


「ならないわよ」


先ほどの仕返しのように彼は「絶対なる」と笑う。


辺りはもう秋の虫が、我こそはとあちこちで鳴いている。


夜になると、昼間の暑さが嘘のように風も冷たい。


「身体が冷える、中に入ろう」


午後9時きっかりの、なつみ園の消灯時間。


次々と窓から漏れていた明かりが消えてゆく。


あっという間に、中庭を照らすのは月明かりだけになった。


ぼんやりとした、でもそれでいて優しい光。


泰輔の手が私の頬を撫でる。


「だめよ、こんなところで。子どもたちが見てたらどうするの」


「かまうもんか」


引き合うように顔と顔が近付く。


「泰輔…」


目を閉じた時だった。


「こらぁ!おまえら!」


驚いて声のした方を見ると、建物の一番端の窓から、天宮先生が身を乗り出して怒鳴っていた。


電気が消された窓からもいくつもの顔がのぞき、笑い声と冷やかす声があがる。


中にはタケルとハルキの声もある。


「天宮のやつ、めざといな」と泰輔が舌打ちをした。


「ふふっ、残念ね。戻りましょ」


「ああ」


そう言ったのに、不意打ちのように彼は私の額に口づけをした。


一斉に悲鳴に似た歓声が上がる。


「こらぁ!泰輔!真琴!あとで俺の部屋に来い!」


そんな天宮先生の声など、どこ吹く風。


泰輔は大きな口を開けて笑うと、建物に向かって手を振った。


彼の視線の先には、なつみ園に入所している男子の部屋がある。


「いいか、おまえら。惚れた女にはとことん尽くせよ!」


再び拍手が起こると、応えるように彼はまた手を挙げた。
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