無口な彼が残業する理由 新装版

青木は私を貶めるような不適な笑みを浮かべている。

頭の中は掻き乱されてグチャグチャだ。

「片想い、やめれば?」

その言葉は救いのようでもあり悪魔の囁きのようでもあった。

「俺にしとけよ」

甘い罠を仕掛けるように、私の心を揺さぶる。

辛い片想いに終止符を打てば、

問答無用で愛してもらえる。

だけど一度踏み入れると二度と抜け出せない。

そんな世界を想像させられた。

私の頭の中は完全に青木に支配されている。

青木の顔がまた少し近付いてきた時。

ガチャッ――

倉庫の扉が開く音がした。

青木は顔だけを扉に向け、体は私から離さない。

視界を覆っているから私には誰が入ってきたのか見えなかった。

「ああ、あんたか」

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