無口な彼が残業する理由 新装版
丸山くんの眉間にはまたシワが刻まれている。
今日は不機嫌な顔ばかりだ。
「今日はちょっと疲れちゃったから、もう帰ろうと思って」
放してよ。
私のことなんて嫌いなくせに。
疎ましいくせに。
顔が見れない。
またさっきみたいな顔をされたら立ち直れない。
「そうじゃなくて」
丸山くんの冷たい手が私の顔を捕らえる。
無理やり顔を向けさせられた。
エレベーターはどこかの階に去っていく。
「なに?」
「熱い」
「え?」
「熱、あるぞ」
嘘でしょ……。
入社して以来皆勤賞の私が?
「まさか」
「熱い」
確かに言われてみれば、
私は寒いけど丸山くんは腕捲りするほど暑いってことだし、
冷たく感じるこの手も、いつもはもっと温かい。