無口な彼が残業する理由 新装版
新幹線の短い乗車時間でも眠ろうとする青木に
京都の情報誌を押し付ける。
「ここと、ここと、ここ。ランチはここで、夜ご飯はここね」
「はいはい」
「今日の宿泊はこの民宿。どう? 庭園がいいでしょ?」
「おー、マジだな」
端から見れば、きっとカップルに見えるだろう。
ふと思う。
青木と付き合ったら、こんな感じなのかな。
もし私が丸山くんを好きにならなかったら、
私は青木と付き合っていたのかもしれない。
もしあの日、私が資料の箱を運んだあの日、
丸山くんがたまたまあの階段を通らなかったら。
何気なく箱を運んでくれたりしなかったら、
私は彼を好きになることもなかった。
そしたらきっと、私は青木を選んでいたと思う。