無口な彼が残業する理由 新装版
私の力が加わって、椅子のキャスターが転がった。
不安定な私の体が椅子から滑り落ちる。
それを丸山くんがグイッと持ち上げて、
私たちの体はより一層密着した。
想像以上にぴったりと。
立ち上がった状態で抱き締め合う。
私は愛されているような気がして幸せな気分になった。
その幸せな気分が涙の蛇口が締めていく。
呼吸が落ち着いたところで、丸山くんは私をゆっくりと解放した。
「ありがとう」
「うん」
本当は名残惜しいけれど、いつまでも甘えているわけにはいかない。
あんな風に包まれていたら、私はきっと欲を出してしまう。
丸山くんは言葉数が少ないから、
それに付け入ってワガママを言ってしまう。
彼を困らせたくはない。