無口な彼が残業する理由 新装版
連れてこられたのは人気のない非常階段の踊り場。
当然ながら屋外にあたる。
花粉症の薬の効きが十分でなくて、
私は手首を捕まれたまま
「クシュッ!」
一発かましてしまった。
鼻水が出なくて良かった……。
「寒い?」
無表情の丸山くんが気を使ってくれる。
「いえ。花粉です……」
グスッと啜れば丸山くんの眉が下がった。
……気がした。
「ごめん、戻る?」
無表情の中に穏やかさを感じる。
「ううん、大丈夫」
さっきまで怒っているような気がしたけど、気のせいだったのだろうか。