コイン★悪い男の純情
 「お袋!」

 電話の主がたえとわかると、淳也はたえの部屋まで走って行った。

 智子も電話の音で我に返り、淳也の後を追い掛けて行った。

 「私 の せ い や。私 が みん な 悪 い の や。堪 忍 し て や」

 たえは二人を見ると、頭を深々と下げた。



 「これ が 精 一 杯 や。土下 座も でけ へん。情  無  い  な  あ」



 そう言って、たえは顔をゆがめて泣いている。

 「お袋、大きな声を出して許してくれ」
 「母さん、ご免な。こんなに苦しめて」

 智子はたえに謝りながら、涙を流している。

 「私 の せい で、兄 弟 喧 嘩 は や め て。お 願 い や。胸 が 苦 しゅう な る わ」

 「俺が悪かった。金輪際、智子とは喧嘩はしない。二人に誓うよ。智子、許してくれ」
 「喧嘩を売ったのは私の方よ。兄さん、ご免ね」


 「智 子、許 して や。病 院 か 施設 に 入れ て くれ たら え え で」


 「母さん、私が悪かったわ。一番苦しいのは、母さんやいう事忘れていたわ」

 「仲 直り 出来 て 嬉 し い わ。淳 也、頼 み が ある ね ん」

 「また、首を絞めてとでも言うつもりか」
 「い い や。ラー メン が 食べ たい ね ん」

 「脅かすなよ。頼みがあると言われるとドキッとするよ。ラーメンか。よし、飛び切りうまいやつを作ってやる」

 
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