らくがき館
落花生
 金曜日。

 いつものように缶ビール片手にベランダに胡座をかいて座る。

 この時期は夜になっても暑いから、また格別な瞬間。

 賑やかな街に出るよりも、こうやって週末の夜を静かに過ごすことができるようになってしまった。






 ふと、ベランダの隅に何かあるのに気がついた。


「?」


 虫かと思ったが、どういう訳か少し気になってしまって、私は網戸を開けた。

 四つん這いで近付いてみると、それは殻のついたままの落花生だった。


「……、」


 それを拾い上げて目の前に持ってくると、私は眉間を寄せた。

 つい半年前までこの部屋に入り浸っていた男のことが一気に思い出されたのだ。


「何よ。こんな所に思い出なんか置いて行っちゃって」


 ベランダの柵に向かって放り投げると、カツン、と心許ない音がして部屋に入り込んで来た。


「馬鹿。なんで入ってくんのよ」


 唇を尖らせてみたが、勿論何の返事もない落花生を恨めしく睨み付ける。

 掃除をしていないわけじゃないのに、どうして今まで気付かなかったのか。




 ピーナッツではなく殻つきの落花生が好きだった彼は、いつも業務用サイズを購入しては、ウチに常備していった。

 塩気がない落花生に始めは物足りなさを感じたが、彼と一緒につまんでいるうちにいつしか落花生がないと逆に物足りなくなっていった。

 剥くのもなかなか面白いし、食べ過ぎ無くていい。

 落としてしまっても食べられる。

 経済的で、ピーナッツよりも塩分も控えられる。

 彼の言い分だ。





 彼がここに来なくなってから、敬遠していた。

 落花生の形がブラジャーみたいだとか、下らないことばかりだった。

 ガハガハ笑うんじゃなくて、2人で顔を寄せあって、クスクス笑って、キスして。


 そんな夜が居心地が良かった。

 彼が来なくなってからも賑やかな所で飲む気にはならなくなったのを、年齢のせいにしていたのだ。



 いつも2つで1つの落花生に、運命を準えたこともあった。

 クサい、と少し引いてみせたが、


「…アンタじゃなかったじゃん」


 あの時、本当は凄く嬉しかったのだ。

 胸のモヤモヤを流してしまいたくて、ビールを一気に煽る。


「バカヤロー!!」


 そして、叫んだ時だった。




 カツン、


 ベランダに、石が飛んできた。



 いや、








 それは、殻付きの落花生だった。




201307

セルフお題大喜利。
難産。
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