摩天楼Devil
社長室で、木島さんの代わりに、秘書の一人がいた。


夏休みの予定を、彼女が木島さんに伝えるそうだ。


「木島はどこに行ったんだ?」


「俺が、ちょっと用事を頼んだだけです。大したことではありません。すぐに戻ります」


義父は中央のソファーに座り、タバコをくわえた。


秘書がすかさず火をつける。


――ホステスみたいだな。これもセクハラにならないか……


「木島とはうまくやってけるか?」


「いい人ですよ。気に入りました」


適当に答えたが、嘘でもない。


「そうか……ならいい……。アイツは優秀だが、“アレ”以来、ずいぶん力落としてな。能面みたいな顔しとるわ」


――人間だからさ。あなたこそ、そうなるべきなのに……


「本来の話に戻そう。夏休みだが――」


拘束されるかと思っていたが、意外とそうでもなさそうだった。


アトリエではなく、神崎家で過ごし、定期的に、木島さんとともに、社長、つまり義父の秘書として付いて、現場を見る。


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