摩天楼Devil
「妃奈。ドレス、着てくれないか」


腕の中で、そう頼まれた。


「……でも、何だかもったいないです」


「いいから。命令じゃなく、頼んでる。妃奈のドレス姿が見たい」


そんな風に言われると、恥ずかしくなる。


止めた方がいいとは考えたけど、抱きしめられたまま頼まれると、よほどのことなのかな? と断りづらい。


ううん、案外心の底では着てみたいと思っていたし、男の人に抱きしめられて、

照れるのと同時に、ちょっと嬉しかったのかもしれない。


「わ、分かりました」


「じゃあ、ちょっと外に出てる」


紳士な態度で、篤志さんは迷わず、玄関へ向かう。


ドアが閉まる音を確認してから、いそいそとイブニングドレスに近付いた。

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