摩天楼Devil
あの時の彼、寂しいそうだったな。


ママが名刺を奪った。


「藤堂雅彦。一度だけ、ワイドショーで見たわ。キリッとした男前だったわよ」


そして、彼女はまた乙女になる。


「ねぇ、ねぇ。娘がお世話になってます、って連絡してみようかしら。お食事でも、って誘われちゃうかも」


人妻が何言ってんのよ! と、名刺を取り返した。


「大体、彼も人の夫でしょ。やっぱり、奥さん綺麗なのかなぁ」


何気なく、呟いた。


「でしょうね。元がいいから、作られるのも、綺麗なものなのよ」


「なんかいやらしいなぁ。母親が娘に言うことぉ」


ママはただ笑い、コーヒーをすする。


「ママがそうだから、私もこうなんだよね」

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