わたしの姫君
「なるほど。――着きました。ここが酒場です」
立ち止まったフェルーラの背後で、ルシアは目の前の建物を見上げた。
隙間なく埋められた煉瓦造りの建物には、唯一入口らしき場所に人の背丈の二倍近くはあるだろう、木造の横開きの扉が一枚あるだけだ。元々窓はないのか、それとも敢えて窓を作らなかったのか、煙出しの煙突だけが、遺跡風の建物を少しだけ家庭的に見せていた。
ルシアは壁に描かれた文様をまじまじと見つめながら、店の中へと入っていくフェルーラに続いた。
扉を開くと、内側にかけられていた鈴が二人を歓迎するように鳴った。
店内は、外装から想像するより随分狭い印象がある。入口の一番近くには、でっぷりと太った店主と手伝いらしき店員を囲むようにカウンターがあり、両隣のスペースには丸テーブルが各四つずつ。五人ほど座れるだろう席の真上には、むき出しのランタンが天井から吊り下げられていた。
昼間だといのに、思わず眉を顰めてしまいそうなほど強い酒の匂いが充満する中、フェルーラは気にした様子もなく慣れた足取りでカウンターに進んだ。
「こんにちは」
「おお、フェルーラの旦那、今日は女連れか?」