わたしの姫君

 ルシアは辺りを見渡した。

 家々には窓がないところが多く、人々の表情も柔和で開放的で落ち着いた雰囲気を感じさせる町だ。また旅人が多く訪れる町なのか、町全体もごみごみしておらず、道は舗装され歩きやすいし、まだ到着して間もないがおそらく住みやすいだろうと容易に想像できる。

 そして、町に慣れている口ぶりのフェルーラに違和感を覚えた。

 髪の色こそ違和感はないが、顔立ちが町の人間とフェルーラとでは全然違う。町の人間は堀が深く、悪く言えばどことなく油っぽい印象だ。だがフェルーラはどちらかと言えば、北国で見てきた人々の雰囲気に近い。鼻筋が通っているなど、目鼻立ちがはっきりしていることには違いないが。

 しかし、違和感があるからどうだというわけでもない。何より彼の素性がどうであれ、ルシアにはどうでもよかったのだ。

「元々あちらのほうは荒れていたのですが、最近魔物も出るようになったらしいですよ。一応、結界が張られているみたいですが」

 フェルーラの言葉に、先ほど通った町の入口を思い出した。

 鼻の奥を刺激する、苦い薬草のような臭いと立ち上る煙。あれは、おそらく魔物が苦手な草を焚いて結界としているのだろう。

 だが、ルシアは内心でため息をついた。

 強く、知恵のある魔物には効かない。人間らが危険を本能的に察知できるのと同じで、彼らもまた、本能的に気付く。低レベルの魔物ならまだしも、そこそこ生きながらえている魔物ならば、一度危険だと感じた臭いには逆に敏感になるはずだ。また、臭いは慣れる。そういった中途半端な対応が、気性の荒い魔物をさらに攻撃的にさせるということに、多分気づいていない。

「お気遣いありがとう。でもあたしなら大丈夫よ。返り討ちにしてやるわ」
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