わたしの姫君
「どうやらこの辺りは片付いたみたいですね。奥のほうはわたしの部下がなんとかしてくれるでしょう。――ところで」
息ひとつ乱れていないカインが、改まってルシアを見た。
手にしていた剣を鞘に戻すと、仄かな光すら辺りから消える。しばらく光に慣れた目が、暗闇に馴染むまで少し時間がかかった。ようやく慣れてきた頃には、暗がりの中でもカインの表情がはっきりとわかった。
癖のない金色の短い髪は、陽に当たれば透きとおるほどの美しさだが、夜闇に紛れてもその繊細さは失われていない。ルシアと同年代という若さで騎士団の団長にまで上りつめただけあり、瞳から受ける力強さはルシアさえも時おり気圧される勢いがある。彼を慕う女性に囲まれ、手作りのお菓子や料理を手渡されて、頬を染めながらルシアに助けを求めたカインと、同人物だとは思えないほど真剣なまなざし。
「いつになったら魔界に戻ってきてもらえるのでしょうか」
「心配しなくてもそのうち帰るわ」
「お会いするたびにそう仰っていますがもう二年ですよ? わたしたちが貴方を連れ戻すよう指示されていることもご存じでしょう。これ以上フラフラされると、わたしの立場が危うくなるのですが――やめろヴァスタ!」
カインの声に振り向いたときはすでに遅かった。
カインと同じ騎士の甲冑に身をつつんだ若い女性が、両手で柄をしっかり握り、力いっぱい剣をルシアの肩に突き刺した。
肩から電流を流したような、激しい痛みがルシアを襲う。ヴァスタと呼ばれた騎士の女がルシアの肩から剣を抜くと、勢いよく血が吹き出しヴァスタの顔面を血で染めた。
途端に失われた血と痛みで平衡感覚を崩したルシアは、片膝から崩れるようにして地面に手をついた。左手で流れる血を抑えようと右肩を支えるが、指の隙間を伝って生温かい血が容赦なく流れる。