わたしの姫君

「すみません、ルシア様。お咎めならば後からいくらでもお聞きします。ですが今はカイン隊長と一緒に国にお戻りくださいませ」

「親……衛隊……!」

 ヴァスタは剣を鞘に戻し、両足を揃えて頭を下げた。

 丁寧な口調と態度とは裏腹に、しかし彼女の眼には怒りにも似た激しい炎を灯していた。

「ヴァスタ! 君は一体なにを勝手なことをしているんだ! ルシア様のことはわたしに任せてくれと頼んだだろう……――」

 ルシアを背に回し、なかば庇うような形で部下を怒鳴りつけていると、辺りが急に明るくなった。驚いたカインとヴァスタは言葉を失くし、状況がつかめないまま森の中を見渡した。

 明るくなったのではない。
 森全体に火が回ったのだ。それも突然に。

「な、どういうことだ……」

 火花が爆ぜる音と、風に煽られ炎が唸りを上げる音。ヴァスタは炎で揺れる景色を目に映しながら、茫然と呟いた。

「――狼狽えるな。幻だ」

 カインが静かに告げたときには、すでにルシアは動いていた。

 火の熱と痛みから噴き出る汗を拭うことすら忘れ、二人が呆気に取られた一瞬の隙を見逃さなかった。

「ルシア様!」
「追わなくていい」

 一瞬のうちに姿も気配も絶ってしまったルシアが見えているかのように、カインは森の奥に視線を馳せると呟いた。
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