わたしの姫君
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風の力を借りて森の奥までなんとか辿りついたルシアは、気力が途絶えると倒れこむように森の中で気を失った。
わずかな時間だと思っていたルシアは、意識を取り戻して驚いた。
晴れていたはずの空は月を隠し、細い雨を辺りに落としていたからだ。
血の気を失ったルシアの体に、雨は容赦なく降り注ぐ。寒さからか、それとも再び意識を手放そうとしているのか、小さく体を震わせると目覚めた意識が再び落ちそうになるのを自覚した。
(雨か……。今空に向かって飛べたら魔界に戻れるのかな)
そんな気力もなければ、まだ戻るつもりも全くないのに。だが、雨が降ると必ず懐かしさで心が満たされるのだ。
雲海のさらに上空に浮かぶ島、魔界。
本当かどうか確かめたことはないが、魔界から落ちた水が人間界に流れるとき、それが雨となり地上を濡らすと聞いたことがある。うんと高い空から落ちる水が凍らないのか不思議に思ったこともある。けれど、それよりも雨になるほうが、なんだか素敵なことだとルシアは思うのだ。女らしさなど一面も見せたことのない国の者に言ったら、鼻で笑われてしまいそうなことを言っているという思いもあるが。
耳元で、草を踏み分ける足音を聞き、うっすらと目を開けた。
雨に濡れた地面から、濃厚な土の匂いが漂う。履き古した靴底に、柔らかくなった土がこびりついていた。
視線を上げて見てみたが、月が見えなくなってしまった夜、その者が誰なのかわからない。ただぼんやりと、髪が揺れるのが見えた。
その者は、一言も発せず暖かい毛布をルシアの肩から下を隠すようにかけると、軽々とルシアを抱きかかえた。そのままやはり無言でゆっくり歩き出す。
規則正しい揺れに、ルシアの意識が再び落ちる。
ゆっくりと、それは心地よく。