わたしの姫君

◆◇◆◇◆◇


 二年前のあの日。

 満月の夜だった。

 城の大広間ほどの広さを持つ噴水広場に、ルシアはいた。

 時刻はすでに真夜中を過ぎ、広場には街の明かりがいっさい入っていない。飛沫が月の光に反射して、時おり宝石を散りばめるようにきらきら輝くのみ。

 噴水の中央には裸体の女性像が二対、お互いの身体に腕や髪を絡みつけ、どちらの右手にも世界を創造した神様から授かったといわれる神器を手にしていた。

 魔界では、幼い頃誰もが親から聞き伝えられる神話の女神は、ここサーラムで誕生したともいわれるゆえ、強国クレイダーではなく、サーラムのこの地にある。そんな女神を祝福するように、途絶えることのない噴水が彼女らを濡らした。一年中、いつ訪れても変わることのない風景だが、今は不思議とルシアの目には、今日初めて見るような新鮮な気持ちでいた。

 日が高いところにある時刻では、この辺りは今とは違って騒がしい。

 楽隊や芝居を披露する者も日々絶えず、彼らの催しを楽しみに毎日訪れる子供や若い恋人たちも多い。そんな者らを対象に、手軽な料理や菓子、飲み物を提供する移動店舗もこの辺りには数えきれないほど並ぶ。しかし、今はどこを見渡しても、気配すら残っていない。

 寂しいのと、楽しい気持ちとが錯雑する中、ルシアは飛沫が跳ねる音を聞いていた。
< 25 / 30 >

この作品をシェア

pagetop